我々ミュージシャンは、楽器とともに一生を過ごす宿命を負った、 哀しくも楽しい人間群である。永年楽器と共に暮らしていると、 知らず知らずのうちに、楽器が奏者に侵食してくる。
 気難しい楽器の指使い(運指法)、タンギング(運舌法)を練習し、 天候や湿度に敏感に反応して鳴ったり鳴らなかったりするのを怒りながら 毎日手入れ等していると、しまいには、奏者と楽器、どちらが主人か わからなくなって来る。こうなって来たあたりから、一人前のミュージシャンの悲喜こもごもの人生が始まるのである。
 楽団のリーダーとして、私自身もピアノを弾き、指揮棒を振りながら、 身辺にタムロする様々な楽器群とそれに支配される奏者群を、 ここに楽器型人間特性の考察として、ご紹介しようと思う。
ヴァイオリン part 2

 「バリもの」という言葉をどこかで聞いた事がある。この車はバリものですよ、とか何とか‥‥。バリッとした物というような意味だろうが、楽器にもこれが 時々あるように思う。

 我が楽団のコンサートマスターのヴァイオリンがこういう「バリもの」 のひとつである事は、前に述べた。男性的か女性的かと云えば、女性的な「バリもの」かも知れない。アンタがしっかり弾いてくれればバビッと鳴ってあげるわヨ、 みたいな感じである。こういう楽器は3百才ぐらいなので、人間の40才、50才、60才なんていうのは殆ど気にしない。人が成長すればするだけ、それに対応する余裕を持っているのだろう。私よりひとまわり以上年上のミュージシャンのコンサートマスターとしての音に近ごろ磨きがかかって来たのを聴いて、何だかそんな気がする。

 音楽は不思議だ、といつも思う。

 99パーセントの論理で達せられないものが、残りの1パーセントの神秘に よって達せられる。逆に云えば、1パーセントの神秘の方が残りの99パーセントの論理よりも大切で重要なのが、我々の音楽の世界だ。神秘と言うと何だか妖しげな‥‥と思われるかも知れないので、不思議と言い換えてもいいが、世の中には多々この不思議な事があるから楽しい。

 こうやって書くネタも尽きない、というモノである。例えば、何故生命は誕生したかは分からないのがマトモな人間であるようにマトモな人間には何故ミュージックは生まれ、それがどうあるべきか、なんて事は分からないのだろう。少なくとも私には分からない。

 分からないっちゅう事ぐらいは分かっているので、作曲を続けていられるようなものかも知れない。

 この頃私はマラソン(ホノルル・フルマラソン、コナ・フルマラソンに出場)で頭がシェイクされているので増々ワケが分からなくなって来ている傾向はあるが、楽器に不思議が潜んでいる事は確かである。もちろんピアノにも、ミュージシャンがそれに向かい合う限りそれはあるし、あらゆるオーケストラの楽器と奏者に多種多様なヒミツがあるだろう。次からは楽器を決めず不意打ち的に観察してみようと考えている。

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